モータースポーツとカーオーディオの融合。という、聞いただけでは結びつかないようなお互いの分野だけど、根底に流れるクルマ趣味に対する気持ちには、同じものがあるはずだ。と、そんな想いをもとに、ソニックデザインが主催するイベント「ソニックデザイン サウンドアスロン」が、子供たちの夏休みも終盤を迎えつつある8月24日(日曜日)に開催された。
会場は山梨県韮崎市にある「スポーツランドやまなし」。中央道 韮崎ICを降りてから昇仙峡ラインを通って山を登ること15分程度の場所にある、四方を山に包まれたミニサーキットだ。標高の高い場所だけに早朝は秋の気配を感じる涼しさに包まれていたが、日が昇るに従って夏の強い日差しが照りつける、まさしく晴天の1日となった。
モータースポーツとの融合を掲げるだけに、スペシャルゲストには日本を飛び越え世界でも活躍してきた現役レーシングドライバー、荒 聖治選手が駆けつけてくれた。それも彼自身の愛車であり、随所に走りのカスタマイズが施されたトヨタ・スープラと、自らがプロデュースするレーシングチームで走らせている現役のワンメイクレースカーのトヨタ86という、2台ものクルマと共にやってきた。どうやらこの2台の走りを、来場者の方々へ披露してくれるそうで、朝から誰もが期待に胸を膨ませていたようだった。
会場には先に紹介した荒選手の愛車を始め、ソニックプラスを装着したデモカーも多数展示された。なかにはスバルWRXの姿も。WRXの純正オプションにソニックデザインスピーカーセットが採用されたことを記念して、正式発売前のタイミングだったが、スバルより特別な許可をいただき会場に展示されたのだという。走る楽しさと音楽を聴く喜びを融合した、まさに今回のイベントを象徴する1台だ。
全国各地から集まった、ソニックデザイン製品を取り扱うショップのデモカーたちもズラリと顔を揃えていた。装着されるオーディオはもちろんソニックデザイン製、クルマは車種別専用パッケージ・ソニックプラスの対応車種が中心となった。トヨタ86、スバル・レヴォーグ、スバル・インプレッサなど国産車勢を始め、BMW X1やメルセデス・ベンツCLAクラスなどの輸入車も顔を揃えている。
特にトヨタ86/スバルBRZの注目度は高く、デモカーは複数台が用意され、実際に来場者も率先して試聴していた。純正フロントスピーカーとボルトオン&カプラーオンで交換できるエンクロージュア一体型スピーカーパッケージで、10万円以下が中心という敷居の低さながら、クリアで芯の強い音質にはただ驚いて、つい何曲も聴かせてもらった。音性能の高さに惹かれたと共に、こうやって気軽に実車に乗り込んで音質を試せるのがこうしたイベントの魅力だと思う。各ショップスタッフの説明は懇切丁寧で分かりやすく、だけど決して押しつけがましくもない。敷居の高さも感じず、フレンドリーな気持ちでなんでも相談できる。試聴という側面だけを取ってみても、こうしたイベントには価値があると感じる。
1台1台に興味をそそられるクルマ達に囲まれたパドックで、朝から和やかな雰囲気でサウンドアスロンのプログラムが進行していく。「たとえカーオーディオからクルマ趣味に入った方も、クルマをきっちり走らせる魅力を改めて感じてもらいたいと考えています」という荒選手のドライバー目線でのご挨拶の後は、早速トークショーが始まった。荒選手に加え、お馴染みカーオーディオ評論家の黛 健司さん、テレビ山梨のアナウンサーとしてご活躍されてきた鈴木春花さんの、3人の軽妙な掛け合いは素直に楽しい。「カーライフにおけるカーオーディオの考え方」という荒選手の持論に始まったトークはつい夢中になって聞いてしまった。
「僕は年間3万kmも走るくらい、生活の中で車内にいる時間がとても長い。だから車内がリラックスできる空間であることがとても重要。そのためにはカーオーディオが大事な装備だと思っているけど、ドアの内張やダッシュボードを切った張ったと加工してまでシステムを挿入したくはなかった。愛車の全てが好きだからこそ、純正の室内にはこだわりたい。車両重量が重くなるのも嫌で、収納性を犠牲にもしたくない。だから見た目はすっきりノーマルで、だけど音はいいという部分でソニックプラスに惹かれました。それに僕は、常にエンジンやミッション、タイヤなどクルマから発せられる音を感じながら運転したいので、さほど大音量では聞きません。小さい音だけどクリアに耳に届く。ソニックプラスのこうした部分も、とても気に入っています」
今では数ある愛車のほとんどに装着している、というソニックプラスの魅力を話してくれた。そしてなんとワンメイクレースカーであるトヨタ86にまでソニックプラスが組み込まれていた。「これは普段も使えてレースにも出られるという、ナンバー付きのレースカーです。いかにレースカーと言っても、サーキットの往復を含む日常ユースに使うのだから、オーディオがないのはあり得ない。ソニックプラスなら場所も取らないし軽量なので、格好の存在でした」
さて、レースと言えば気になるのは荒選手が経験してきたレースのこと。トークショーは午前と午後の2回開催されたが、それぞれに違うテーマで、午後は特にSUPER GTやル・マン24時間での体験談が繰り広げられた。「今のレースカーはとても進化していて、ル・マン24時間なんて耐久レースだからといってクルマをいたわったりセーブなんてしない。24時間、常に全開ですよ。ひとりで3時間、700km以上もの距離を走ることもザラ。最高速度は10年前のル・マンでも340km/h以上は出ていました」と、聞けば聞くほど壮絶な体験が出てくる出てくる。そんな荒選手のドライビングを、次のプログラムでは実際に間近で体験できるのだった。
午前、午後共にトークショーに続いておこなわれたのは、本イベントの目玉プログラム「荒選手によるエキシビジョン走行」と、そして「荒選手の助手席でサーキットを体感する同乗走行」。エキシビジョン走行ではトヨタスープラに乗った荒選手が、スポーツランドやまなしのコースを駆けめぐった。しかもただの走りじゃない。来場者の意表を突いてのひとりドリフト大会となった。荒選手の走ってきたカテゴリーにドリフト競技なんて皆無のはずなのに、さすがプロドライバーはドリフトも上手い。クルマを真横に向けて横滑りさせながら、タイヤから白煙をまき散らし、車体を壁すれすれまで近づけてコーナーをクリアしていく様は素直にカッコいい。来場者の方々も「初めてプロの走りを、しかもドリフトを間近で見た!」と興奮気味だった。荒選手は来場者を驚かす走りをしようと気合いが入り、ほんの数周でリアタイヤを使い切った。ドリフト用のローグリップタイヤとはいえ、タイヤってこんな形で消耗するんだと驚いた方も多かった。
続いては同乗走行だ。トヨタ86の助手席にひとりずつ乗り込んでコースを数周ほど。ここもさすが荒選手、ずっと入れ替わり立ち替わりの15人×2セッションを、ずっと全開走行で走り続けていたようだ。愛車が同じトヨタ86だというオーナーの方は「自分のクルマが、まさかこんなに走れるなんて思わなかった。自分でもコースを走ってみたい」と驚いていた様子。それを受けて荒選手は「クルマの車両価格の中には、これだけのスポーツ性能も含まれているんですよ。せっかくお金を払っているんだから、その性能を眠らせておくだけじゃもったいない」と語った。その他の方々のご意見を聞くと「限界近くでプロの走りを見て、でも荒さんはとても落ち着いていて普通に話しかけてきてくれるし、プロってスゴイんだなぁと思いました。あの異次元のGは病み付きになりそう」「あんな極限状態でレースをして1分1秒を争いながら人と競うってスゴい世界ですね」と、みなさん口を揃えて、プロドライバーの走りに感動していた。
その後は、自分の愛車でコースをクルージングするファミリー走行の時間が設けられた。「思ったよりコース幅が広いので、どこを走っていいのか分からない」「外で見るよりも高低差があるんですね」など、コース内でステアリングを握ったからこそ発見したものがたくさんあったようだ。ファミリー走行の列を見ると、このイベントには多種多様のクルマが参加していることが分かる。ヨーロッパの最新グランツーリスモから、国産スポーツカー、ミニバンに軽自動車まで。カーオーディオを楽しむのに、クルマの垣根なんて存在しないことが、改めて伝わってくるような光景だった。
モータースポーツとカーオーディオをミックスさせたサーキットイベントという、今までにないアプローチ。最初は戸惑いもあるかと思ったけれど、実際には「カーオーディオ好きはモータースポーツの世界を知り、走りを楽しんできたユーザーはカーオーディオの魅力を知る」と、来場者の誰もが双方の世界に興味をそそられていたようだ。盛りだくさんの催しが、テンポ良く進行したおかげで、時間はあっという間に過ぎていった。
最後にオーディオ評論家の黛 健司さんに、本イベントの感想を頂いた。「普段はカーオーディオで音楽を聴くことばかりに意識がいく方も多いでしょうが、今日はもう少し違う側面からクルマの楽しさを再発見できたと思います。僕らの普段乗るクルマが、荒さんのような一流のドライバーの手にかかると、ああいう動き方をする。それが肌で伝わった。今回、新しい試みということでしたが、スタートとしてはとてもいい。荒さんの存在がなによりも大きかった。こうしたイベントを継続的に続けていくことで、カーオーディオという軸の周りに、いろいろなカーカルチャーが結びつくことを願っています」と、黛さんが述べるように、このイベントは大盛況で幕を下ろした。最後、荒選手はさんざん走り回った愛車を前にして「今日は皆様に楽しんでいただくために、新品タイヤ2本を完全に使い切りました。いや、なにより自分自身が楽しんで走れたからでしょうね。今回のイベントはとても新鮮で、そして大成功だったと思います。今後は、カーオーディオから入った人がクルマのパフォーマンスを感じられ、クルマ好きがカーオーディオの大切さを実感する、そんなイベントに成長していって欲しい」と、イベントを総括した。ソニックデザインが定期的に催しているリスニングキャンプとはひと味違う、クルマ自体の運動性能も楽しめるソニックデザイン サウンドアスロン。もう早々に次回の開催が望まれているようで、今後はより大きなイベントに発展することが期待できそうだ。ともあれ今回、参加してくれた大人達を始め、家族連れでやってきていた子供達にとっても、夏休み最後のいい思い出になったに違いない。きっと子供達は帰路の車内で、ソニックデザインの快音に包まれながら、安らかな寝息を立てていたんだと思う。
〈モータージャーナリスト 中三川 大地〉