晴天に恵まれ初夏を思わせる陽気の4月9日(水)、ソニックデザイン主催による初めての販売店向け「デジコア技術研修会」が開催されました。会場としてご協力いただいたのは、愛知県名古屋市のカーオーディオ・カーセキュリティ・ホームシアターの専門ショップ〈ベイシス〉様。ここに、関東、北陸、関西の各地からショップデモカーに乗って、6店舗のソニックデザイン認定販売店が集結しました。この日、講師としてお迎えしたのは、ソニックデザイン リスニングキャンプでもすっかりおなじみのカーオーディオ評論の第一人者、黛 健司さん。「デジコア808i」を中核とした各ショップ自慢のデモカーの実力のほどを、きめ細かく丁寧に、そして厳しく、評価や指摘をしていただき、デジコアのデジタル・フルマルチシステムとしてのポテンシャルを活かしきる、優れた音質調整機能についてスキルアップを目指しました。
デジタルプロセッサーアンプ Digicore808i
デジコアで、お客様の声にどこまで寄り添った音づくりができるか
いわゆる技術研修会とはガラッと様子を変えた今回の研修会は、講師の先生から一方的に音づくりのポイントや技術的な講演を聞いたり、簡単なサウンドクリニックをしてもらうというものではありません。講師である黛さんをそれぞれのお店でカーオーディオシステムをインストールされた一人のお客様と見立て、まず午前の部では、黛さんに各デモカーの音を試聴していただき、再生音への印象や改善すべき点を指摘してもらいます。そして、そこからがインストーラー一人ひとりの腕の見せ所。指摘された点を、「もっとこうして欲しい」「こんな方向の音に仕上げて欲しい」という"お客様からのリクエスト"だと思って、早速その要望に応えてシステムの調整作業をスタート。昼休みをはさんで午後からは、お客様を満足させる音づくりができたかを黛さんが再度試聴する、という2部構成。もちろん、研修会ですので黛さんのリクエストは一般のお客様より大分厳しくなりますが、その厳しい注文にどこまで寄り添ってお客様を満足させられるか、という実践的でストーリー性のある研修を試みました。
冒頭、こうした主旨の説明があり、講師の黛さんからも、どういう展開になるかとても楽しみにしているという今日の研修への期待が語られ、午前の部が始まりました。
午前・午後とも厳しい要求が続出し、予想以上に熱が入った展開
午前の部では、黛さんがそれぞれのデモカーに順次乗車して、「もっとこうして欲しい」ということを次々とリクエスト。各ショップのインストーラーの方々は、その意図を自身の技術と経験に照らして受け止め、持参した測定機器等を駆使してお客様の要望に最大限応えるために悪戦苦闘。デジコアのユニットとしての特性をより十分に発揮させるために一からチューニングを見直したり、単なる音の再生ではなく"音楽"の再生へと意識改革を求められたり、ボーカルの声質に"その歌手らしさ"を要求されたり、さらには歌い手の体格まで思い浮かぶように(?)といった無茶振りとも思えるようなリクエストまで飛び出しました。
そうした要求に応えて調整を行った後、午後の部での試聴結果は、というと……予想に反してなんと黛さんからダメ出し、つまり再調整をすることになったお店が続出。もちろん、お客様の100%の満足を目指して食い下がるインストーラーとしての熱意があってのことですが、「欲を言えばもう少し…」とか「合格と言うためには…」という黛さんの言葉に、まさに皆さんのインストーラー魂に火が点いたといった状況に。そして、音づくりの熱いやり取りは夕方5時半近くまで続き、ようやく黛さんにもインストーラーの方々にも、「この感じ!」「こういうことなんですね!」という満足の表情が浮かびました。
こうした研修を通して、さらなる音づくりのレベルアップへ
実は今回、遠方から来ている方もいるので、午後の予定は、調整後の試聴が済んだ方からの自由解散。ところが、自身の試聴が済んでも一人も帰ることなく、お互いのデモカーを交互に試聴し合ったり調整の経緯を話し合ったりと、大変熱心に意見や情報を交換している姿が印象的でした。そんな状況から、最後には黛さんも予定にはなかった今日の総括をスピーチ。最初のリクエストに対してさまざまな調整を行い、さらに2度3度と試聴と調整を重ねて、結果的にどのデモカーもお客様である黛さんの望んだサウンドにグッと近づけることができた、お互いに予想以上に得ることの多い研修会になった、といううれしい感想をいただきました。
この初めてのデジコア研修会は、黛さんから直接、指摘やアドバイスを聞けるだけでなく、評論家の黛さんとインストーラーの貴重な交流の場にしたいと考えましたが、始まるまではどういう展開になるか予想のできない状況でスタート。でも終わってみれば、どなたも満足感や達成感いっぱいの表情で有意義な一日をかみしめているようでした。そして口々に、またこういう機会があったらぜひ参加したいと、早くも次回に期待を寄せていました。
これを機に、インストーラーの方々がより一段高いステージで音づくりを追求し、お客様にさらなるご満足をお届けできるよう、ソニックデザインも製品の開発・提供にとどまらず、販売店の音づくりのレベルアップのための機会と情報の提供を、これからも皆さんとともに続けていきたいと改めて感じた一日でした。
今回の研修では、黛さんからホームオーディオ分野における最新情報として、昨年秋に発表されたイギリスの高級オーディオメーカー LINN(リン)社のホームオーディオシステムを試聴できる機会を提供していただきました。ベイシス様のリスニングルームをお借りしてセットされたLINN社のデジタル伝送ミュージックシステム〈EXAKT〉(イグザクト)は、スタジオマスター音源を、スピーカーに至るまでの信号経路においてデジタル伝送部分を極限まで拡張し、信号ロスの極小化を目指したシステム。NASにストックしたデジタル音楽データをヘッドユニットであるEXAKT DSMに送り、さらにデジタル伝送システムでスピーカーの中までデジタル信号のまま送るという、新しい音楽再生スタイルの製品です。
当然、カーオーディオとは再生環境が大きく異なりますが、いい音、いい音楽を再生するという目的のために、ホームオーディオの最新の潮流に触れることは、大いに参考になる貴重な体験でした。
午前の試聴で、基本的にはまずまずの評価でしたが、声の質感や音楽のニュアンスをどれだけ捉えられるかが大事という指摘を受けたので、その点の改善にチャレンジ。午後は、的を外さずに調整できているので、次のステップとして聴き手に迫ってくる「音の生命感」や純粋に音楽を楽しめる音を追求して欲しい、との課題をいただきました。長年の経験を活かしつつ、つねに新しいことに挑戦されるサウンド21様。日頃心がけているのは、お客様の好みをいかに汲み取り反映できるか、ということ。今日は〈ザ スウィート プリフィクス〉搭載のデモカーで参加し、黛さんからの貴重なアドバイスやインストーラーの皆さんの話が聞けて、とても有意義だったと熱く語られていました。
1回目の試聴では、まだユニットの特性を十分に出し切れていないとの指摘を受けたので、いままでとは違う方法でほぼ一から再調整。黛さんから厳しく指摘してもらったので、思い切って新しい調整方法に挑戦した結果、ユニットの音がしっかりと出た、黛さんいわく"活きのいい音"に仕上げられました。日頃の調整では、スピーカーの存在を感じさせず演奏者が目の前にいるように聞こえる音響空間づくりを心がけているオートブラスト様は、純正の美観やイメージを崩さずにここまでいい音にできることをアピールするデモカーで参加。いままでやったことのない調整方法にチャレンジできた経験に、大変満足されていました。
ボーカルについて歌手それぞれの声の"らしさ"が足りない、というのが黛さんからの最初の指摘。そこで、システムの音響特性上のピークとそれ以外とのバランスを見直しましたが、午後1度目の試聴では調整のポイントを外してしまったため、再度チャレンジ。ピークを下げるのではなく、逆に"谷"の部分をピークに近づけるチューニングをしたところ、"正解!"との評価をいただけました。日頃からお客様の要望をよく聞き、それに応えられるように、取付後の丁寧なエイジングで音の熟成をはかっているサウンドクリエイト金沢様。高度な要求にしっかりと応えることは実際のお客様にも必ず活かせると、この研修の意義を感じられていました。
最初の試聴での黛さんの指摘は、ボーカルの声はしっかり出ているけれども、低域のある部分の音が他の音のジャマをしているということ。自信のあったボーカル再生については、黛さんからも好評価をいただくことができました。そして午後の試聴では、低域と併せて高域も変えたことでボーカルのよさまで損なってしまい、再調整へ。次は、問題の低域だけを整えたところ、ブーミーな感じが解消でき"合格"となりました。お客様にボーカル系のお好きな方が多いという荒井タイヤ商会様は、ボーカル好きな方にアピールできるように調整したデモカーで参加。黛さんは、そのことを真っ先に指摘し、そのうえで貴重な意見をくださり、とても勉強になったとのことでした。
最初、ボーカルは本来の音が出ているが、曲によって高域でちょっと耳につくところがある、低域のある音域で音(バスドラム)の輪郭がぼんやりしている…という指摘があったので、ボーカルのよさを崩さずに高域・低域の調整にチャレンジ。午後の試聴では、問題点が改善されたことで、ボーカルもさらに引き立つようになりました。日頃の調整では、システムの特性を最大限に引き出すことを念頭に、エイジングの中で丁寧にお客様の好みの音に仕上げていくことを心がけているクレアーレ様。今日は、自身の目指す「いい音」が本当はどうなのかを客観的にみてもらえたり、他のデモカーの音を聴いたり情報交換をしたり、とても有意義な経験ができたと満足されていました。
最初の試聴では、本来のソニックデザインの音とは違う仕上がりだけれども、ひとつの個性としてよくまとまっている、となかなかの好評価。ただ、"音色"の部分でもう少し自分の好みに近づけて欲しいと言われたので、その部分を調整。午後の試聴では、より黛さん好みの音になったという評価と、「こういう鳴らし方もあるんですね。"ベイシスの音"を聴かせてもらった感じですね」とのコメントをいただきました。日頃から、インストールしたシステム本来の特性をしっかり引き出すとともに、独自のノウハウを活かしたプラスαの魅力ある音づくりを心がけているベイシス様。評論家の方の要望に応えて調整するのは初めてなので、大変参考になったと喜ばれていました。
最後に、丸一日、長時間にわたり講師として精力的に研修をしてくださった黛さんの、初めての〈デジコア技術研修会〉の感想と総括のコメントをご紹介します。
改めて言うまでもないが『デジコア技術研修会』は『サウンドコンテスト』ではない。研修会と名付けられているが、何かを教えてくれるわけでもない。私はいちおう講師ということになっているが、インストーラーを相手に講演をしたわけでもない。インストーラー自らが努力してオーディオセンスを磨き、Digicore 808 i の調整スキルを高める研鑽の場、それがデジコア技術研修会だ。
私自身、ソニックデザインの音が気に入り、すでに10数年にわたって、さまざまなモデルを愛用し続けている。もちろん、Digicore 808 i はシステムの中核として、発売以来使い続けている。その経験を踏まえてこの技術研修会に参加した。ソニックデザインを心から愛するオーディオファイルが、愛車を新しくすると同時に、ソニックデザインのフルシステムの装着を依頼。クルマが完成して最初に音を聴いた、そんな状況を想定して試聴してみたのだ。ショップが持ち寄ったデモカーを、自分のクルマだと思って聴き、カーオーディオシステムの音に満足すれば喜びを伝え、不満や疑問があれば、オーナーとしての感想を率直に伝え、改善を要求する。それだけである。
じつは、音を聴き始める前には、オーディオシステムについて、なんの説明も受けていない。デジコアが付いていることはわかっているが、それ以外、スピーカーはどんなユニットがどこに装着されているか、そんなショップ側の説明など聞かずに、とにかくオーディオシステムから奏でられる音楽をひたすら聴いた。聴きながら、気づいたことをどんどん指摘していった。「ベースの音が肥大気味で不明瞭ですね」「女性ボーカルの声に、もっと潤いが欲しい」「シンバルの音が薄い!」「ピアニッシモのピッツィカートが浮き上がるように鳴って欲しい」「ステージの雰囲気が伝わる、アンビエンスの再現に不満がある」「歌手が口先だけで歌っている印象。胸の厚み、身体の大きさが感じられない」「グランカッサはかろうじて聴こえるが、もっと量感タップリに鳴って欲しい」「清楚でありながら妖艶、艶やかな声の特徴が充分聴き取れない」などなど、音楽を聴きながら矢継ぎばやに要求していく。
クロスオーバー周波数、レベル、スロープ、イコライジング周波数……、具体的な数字などはいっさい言わない。ただひたすら、感覚的に感想を述べるだけだ。だから、同乗したインストーラーはたいへんだ。私の発言を頭に刻み、あるいはメモに取り、その言わんとするところを理解・解釈して、デジコア調整パラメーターのどこを再調整すればいいか、思い悩んだことだろう。
第1回目の試聴終了後、インストーラーはデジコアを再調整し、2回目の試聴に臨む。最初に指摘した問題点を見事に解消して、一段とよい音を聴かせてくれるクルマもあれば、思うようにいかないクルマもある。中には再調整してかえって悪くなったクルマもあった。しかし、インストーラーは諦めることなく調整を繰り返す。悩んだときはソニックデザインの技術者からアドバイスを受けることもできる。
もちろん、最初から私を満足させてくれる素晴らしいサウンドもあった。しかし、最初は満足しても、半年、一年と時間が経過して、さらなる高い要求が出るとしたら、このような発言(不満)となるのではないかと想像して、あえて指摘してみた。その結果、参加したすべてのクルマがよりよいサウンドに生まれ変わり、ソニックデザインユーザーの私は大満足だった。
参加した方々も達成感に浸っていたに違いない。研修会終了時のミーティングでは、インストーラーの顔には満足しきった表情が伺えた。業界初の試みといえる『デジコア技術研修会』は大成功だったと言えるだろう。時間の関係で、今回の参加は6店舗のみだったが、今後も順次、定期的に開催されると聞く。現在、全国で13店舗の Digicore 808 i 取り扱いショップは、これを機会に飛躍的なスキルアップを果たすに違いない。